【PSO2】 戦場で叫ぶメリークリスマス

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白一面の雪原を裂く様に、一筋の黒き影が往く・・・。





疾走。兎に角疾走。持てる限りの脚力を駆使し、雪を蹴って走る。
不安定な足場、不慣れな雪と氷、道中に仕掛けられた
カタパルトによる断崖跳躍。それらがもたらす強烈な負荷に、
脚部アクチュエーターの全てが悲鳴を上げるが、それでも尚、
男は走らねばならなかった。


「黙ってろメガネ! そんなことよりクソッタレなケーキ屋が
転移してくる座標を教えやがれクソがぁッ!」


返って来る筈も無い。まして相手に届こう筈も無い。

だが、只でさえ急がなければならぬのにも関わらず、此方の状況を
察そうともせず、戦地より離れた場所よりただただ一方的に、機械的に、
画一的に、テキスト通りの通信の雨を叩きつけてくるオペレーターに
罵声の一つも浴びせたくなるのは、一つの人情ではないだろうか。

例えそれが、赤い血の代わりに黒い油の通う機械生命体であったとしても。

その理由が、凶悪な原生生物のみならず、異形どもが跋扈する地に
わざわざ店を構え、あまつさえ自ら苦境に陥って救難信号を此方の
船団に送ってくる、自業自得極まりないケーキやごときを救う為と
あっては尚更であった。


「人のことを言える立場でもない、か・・・」


目の前に好餌をぶら下げられて励起する馬車馬の心境とは
こういうものであろうかと、男は独りごちた。

降下前のシミュレーションも無し、対寒冷地用の機体セットアップも無しの
ぶっつけ本番な降下作戦。明らかに無謀過ぎる話だ。むしろ、そんな好餌でも
無ければ、今こうして凍土に足を踏み入れていたか、どうか。


「せめて、脚部をホバー仕様にしておけば・・・」


適切なセットアップの成されたホバーに脚部を換装していたならば、
少なくとも、雪に足を取られ、氷に足を滑らせるなどという、不慣れな
凍土の地形に翻弄される事態はある程度避けられたであろう。

が、敢えてそうしなかったのは、男の信条もある。地に足がついていなければ、
剣を振るう時に踏ん張りがきかないという、剣術屋稼業の視点に立ったものだ。

だがそれ以上に、軌道上からの降下可能時間に限りがある状況では、
惑星のその日の天候・気温・湿度・地形・自然現象に応じた、繊細なセット
アップを要する足回りの換装に時間を費やせないという事情があった。



本来であれば、構成員の安全を保障するという建前上、そして何より
アークスと言う組織の社会的信用を維持する目的から、惑星環境に応じた
適切かつ厳正なセットアップや事前シミュレートが構成員に対して
義務付けられている。

しかし、緊急事態という大義名分の前には、そのような事情は軽く消し飛ぶ。

ダーカーの脅威から、原生生物の脅威から己が船団を守り、調査対象の惑星を
守る。それがアークスに本来課せられている義務である以上、守るべき対象が
存亡の危機に陥れば、いかなる事情があろうと、脅威への速やかなる対処が
優先される為だ。




「そんな緊急事態ってのが、惑星1つどころか、たかだかケーキ屋1軒の危機とはな!」


一吼えするとともにカタパルトへと踏み込み、一気に跳躍する。着地時の全ての
衝撃が両脚に一気にかかり、関節が軋んだ音を立てた。長くはもたない。降下時間の
限界の有無に関わらず、この有様では短時間で状況にケリをつけねばならなかった。



ただひたすらに走る。脇目を振らず、ただひたすら前へ。クソッタレなケーキ屋が
転移してくるであろう地点の座標、そのただ一点に向かって。

ケーキ屋に対する憎悪で使命を忘れそうになる時には、途中すれ違った敵性生命体に
思いを馳せる。思いは一つ。「あいつを、どうやって殺すか」

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あのダーカー。ババァが見ていたカタログとやらに載っていたクラブとかいう
生物に似ている。上からの衝撃には強そうだが、地面に接した腹の部分は比較的
柔らかそうな生物に。ならばあのダーカーも同じだろうか。そのクラブとやらが
ダーカーの寄生によって突然変異を起こしたものだろうか。

ならば、その顎を足で蹴り上げ、体が跳ね上がった瞬間に剥き出しになる腹に
剣の切っ先を突き刺してやるまでだ。どんな悲鳴をあげるのか、考えるだけで
心が躍る。


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何だあのダーカー。随分とデケェ面してるじゃねえか。

成る程、威嚇行為も兼ねた、顔を模した盾というワケか。デカイ盾を持った敵と
いうものは、ほぼ例外無く防御面に特化した性質を持っている。ならばこの剣で
その盾を打ち、文字通りその鼻っ柱を叩き折ってやるまでだ。コイツがどっちの
顔で泣くのか、実に興味深いじゃねぇか。


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このダーカーは先程のとは対照的なのか。さしずめ、右腕全体が棍棒と化した
攻撃特化型と呼べる個体であろうか。あの自慢の右腕を叩き折るか、根元から
断ち切るか。己の心の拠り所であろう右腕を失った時、コイツは何を思うのか。
否。そもそも「思う」などということはコイツらに限ってあるまい。ならば
どう嬲り殺しにするか。


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コイツは見覚えがある。確か、マリアが見ていた「図鑑」とやらの写真にあった
マンモスとかいう生命体。肉は高い滋養を持ち、牙は好事家に高く売れるというが、
コイツはまだ幼体なのか、牙がまだ短い。しかし、幼体が存在するということは、
それを育てる成体も、間違いなくこの惑星に存在しているのだろう。ソイツに
出会い、狩り、牙を叩き折るのが楽しみである。もっとも、アークスに牙を買い取る
好事家がいるのか、どうか。


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ガーターが寄生しているものとは異なる、人型の生命体。モニターに映し出される
インフォメーションが伝えるところでは、キングイエーデというらしい。
あの分厚い体毛で覆われた身体を叩き斬るのは困難だろう。下手を打てば、剣が
刃毀れしかねない。だが、それだけに腕や足を叩き斬った時の快感は計り知れまい。
いや、足の腱を斬るか、足を集中的に叩いて転倒させ、その大きな口から剣を
突き入れるのもいいかもしれぬ。



いずれにせよ、この凍土には斬り応えのある生命体がひしめき合っている、と
いうことだ。実に喜ばしい話であろう。

早く正式な降下許可を得たい―

そういった意味では、このような緊急事態によって発生する特例的な降下許可は、
同じ場所を這いずり回ることの繰り返しでしかない日常への刺激、自らが先へ
進むことへのモチベーションを高めるという意味においては、粋な計らいとも
言えなくは無い。

もっとも、それがクソッタレなケーキ屋への憎悪をやわらげる緩衝材たりえる
筈は無い。むしろ、現状ではそういう部分でしか旨みの無いことへの欲求不満に
油を注ぐだけのものでしかなかった。




「対象、予定通り指定座標に転移します! 転移まで残り5、4、3」


オペレーターの声に、歓喜と憎悪が入り混じった精神が平静を取り戻す。
送られた指定座標まで、そう時間はかからない筈だ。だが問題は―

「対象の座標転移を視認。敵性体の包囲を受けている模様。一方より包囲網を
 切り崩し、要救助対象の身柄の確保、及び―」

途中、背後で爆音が響き、火の粉と共に降り積もった雪が弾け飛んできた。

「今の爆発音は!? 無事ですか! 応答願います!」
「ご心配なく。いつも通り馬鹿野郎が墜落スコアを更新しただけだ」


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煙を吹き、火花を散らす輸送機を尻目に、目の前の救助対象に向けて疾走する!

「これより、要救助対象の身柄確保、及び転移時に散乱した貨物の防衛任務に
 あたる! 以上、通信終わり!」

通信を切り、背負った愛刀を抜き放つ。降り積もった雪の反射光を浴びて、
刀身がギラリと凄みのきいた光を放つ。

「クソケーキ屋ぁッ! そこ動くなよ! 手元が狂って店員どころか店舗にすら
 斬り付けかねねぇからな! 死にたくなかったら黙って店ん中で震えてやがれ!」

ケーキ屋に向けて一喝した後、男は崖上より黒い影となって躍り出て、貨物の
一つに突進していたマンモスの幼体の背中に一太刀入れた。



雪煙を上げて着地すると共にその反動でダッシュ、同じマンモスの脇腹に
蹴りを叩き込む。不安定な足場ゆえに、クリーンヒットとまではいかなかったが、
僅かに相手の態勢を崩すことは出来た。そこにすかさず一太刀、返す刀で
もう一太刀と打ち込む。息の根が止まったのを見計らい、次の対象に向かって
雪を蹴り疾走する!

無茶な挙動に、脚部アクチュエーターの悲鳴が更に大きくなる。不安定な足場も
その悲鳴に一役買っていた。時間を惜しんで寒冷地仕様への換装を怠ったの
だから、当然の報いと言えばそうなのかもしれぬ。だが、そんな暇を許さぬ程に
事態が切迫していたのもまた、確かであった。

加えて、強烈な負荷がかかっていたのは、脚部だけではない。

凍土の原生生物はその生態上、体毛が細かく密集しており、そして硬い。更に、
皮下に脂肪を蓄えた肉は分厚く、その脂は刃の切れ味を鈍らせる。

その結果、全身に余計な負荷がかかり、脚部を問わず全身のアクチュエータに
ジワジワとダメージを与え続けることとなった。お陰で、剣が重い。戦いに
弾みがつかず、反応が遅れる。

散乱した貨物が1箱、さらに1箱と破壊され、炎と黒煙を巻き上げる。
その光景が重圧となって、精神面に対する負荷と化し、心を沈ませる。


「クソッタレめ・・・! せめてこの2箱だけは守り抜かねェとヤベェ!」


凍土の狼が箱に喰いつかんとするところへ、脂と刃毀れですっかり切れ味の鈍くなった
剣を突き入れる。突きの一撃は狼の身体を貫かず、ただ彼方へと狼を跳ね飛ばすだけに
とどまった。

安全圏まで残り30秒。残りの箱を包囲するようにマンモスの幼体が1匹と狼が2匹。
たとえ1匹斬ったとしても、更にマンモスと狼のどちらかが後から割り込んでくる。
一拍置いて呼吸を整える暇も無い。ただ喰らいついてくる狼を、振り回されてくる
マンモスの鼻を、すっかり斬れなくなった愛刀の鎬で弾き飛ばし、隙を見て相手に
一撃を叩き込む。その繰り返しであった。最早、戦闘とは呼べない。

振り上げる腕が、踏み込む脚が、全身が重い。愛刀すらいつもより重く感じる。
流れる時間すら鈍重に感じて、残り30秒がいつまでも続くような錯覚にさえ陥る。





「・・・対象の安全が確保されました! ミッション完了です!」
「あ゛・・・?」

我に返った男の目に入るのは、周りで倒れ伏した狼とマンモスの撲死体が数体。
いずれも斬り傷は無く、打撃で所々が陥没し、血を滲ませたものばかりである。


「何とか、終わったか・・・」


安堵した男の耳に入ってきたのは、ケーキ屋の歓喜と悲哀の織り交ざった話し声と、
凍土に吹きすさぶ風の音だけであった。

ギリギリの辛勝。勝利への感慨も、それを分かち合う者も無い。そこにはただ、
1つのミッションを終えたという事実、場違いな軽快極まりない音楽を駄々流す
ケーキ屋が残るだけであった。


「ケーキ、か…」


原則、食料の類を摂らない機械生命体である以上、こうした菓子の類にも
縁は無い。だが、彼の一味の者達、ババァとマリアは別だ。


「ま、土産代わりに買ってくのも悪くないか・・・」


そう独り呟いた男は、季節モノのクリスマスケーキを1つ買った。ホールで
980メセタというのは、ピースで980メセタというのに比べれば多少お得感が
無くも無い。材料に何が使われているのかは知りようも無いが。合成蛋白の塊に
表面をデコレートしたものを売ってるとしたら、このケーキ屋かなり悪徳な・・・

「ウチは材料一つ一つにこだわった、混ぜ物無し正真正銘のケーキ屋よっ!」

怪訝そうな挙動でケーキを見つめる男の内心を見透かしたかのように、ケーキ屋の
女主人の一人が声を荒らげた。


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重くなった身体を引き摺る様にして、男はキャンプシップへの転移装置に
乗り込んで行った。その背に血塗られた剣を背負い、血と油の滲む手に、
クリスマスケーキの包みを持って。
by DunkelFang_PZ00 | 2012-12-12 23:57 | オラクル徘徊記(PSO2) | Comments(0)


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